きのう見た夢

彼は、わたしがはじめて尊敬できるかもしれないと思った大人の男性でした。
魔術師のような、雰囲気を持っていました。
人の中で一人違うのです。纏う空気が。

私は彼の前では
緊張でまっかになり、ろくに話すこともできないのです。
話せたとしても、とんちんかんなことばかりになってしまいます。

彼は、私の夢に何度かでてきました。
めざめるとしあわせで、かなしい夢。

いえのベランダのうえから、雪に閉じ込められた駐車場と、墓地と、
小学校と、そのむこうのビルを、眺めて、空から彗星がたくさんたくさん
降ってくる(おそろしくゆっくり、赤や青や花火のようにさまざまな色に燃えて)
降ってくる夢にも登場しました。

昨日の夢は少し違った。
そこは教室で、何人かの生徒と、先生である彼が授業をしていた。

自分の持つ物語が写真になっていた。
私たちは、自分の写真を、解き明かさなければいけない。

彼は、彼自身の写真を切り抜いて、作文の横にホチキスでとめた。
「さあ、こうしてください」

私たちはみんな、彼に感心してもらいたくて、
自分自身の物語の写真を、慎重に慎重に切り抜いた。
(三ミリ幅ぐらいで白い部分を断ち落とす。)

うまくできた。

彼はいった。
「君は」(といいながら私をみた気がした)「こうしたものに憧れてる」
(彼自身の写真を、ペラペラと振りながら。)
「でも、これは、たんなる、私の趣味趣向なんだよ。」
「別のものでもいいんだ。これを所有したからといって、より清浄になれるわけではない」

彼が何を言おうとしているのか、わからなかった。
でも深い悲しみが押し寄せてきた。
いつも意味が分からないと、からかわれているような、ばかにされているような
皮肉を言われているような、うたがいがくびをもたげる。

しかし、彼が言おうとしていることは、言葉どおり以上のものではないのだ、
と私は思い直した。深読みの必要の無い、そういう種類の人間だと知ってる。

さあ、私は、自分の写真を説明しなければいけない。
私は緊張した。「に、二匹目のキリンが」と私は言った。
言葉は縺れて出て行く。しかし、これでは伝わらない。
言葉を失いながら、必死で考える。うまく言わなくちゃ。通じるように。

「駅があって、駅というのは……」
私は駅について説明をはじめた。今度はうまくいった。
でもそれは自分の言葉ではなくて、どこかのほんの丸写しだった。

そのあと、コインと、今度こそキリンの話をしなければいけない
特に、写真には一匹しかうつっていないキリンが、なぜ二匹目だとわかるのか、
という点が大事だ、と私は思った。

ここで眼が覚めました。



……なんなんだろう。




なんで、
なんで
必要としていることを、夢の中の人間に言われるんだろう?
なにか繋がってるとしか思えない。