忘れていたなあ。街路樹のイチョウがいつのまにか黄金に変化していた。この季節の空気はきんきん音をたてそう。新しい紺色のコートにタータン・チェックの短めのスカート(折り目正しく)、伸びた足、紺のハイ・ソックス。口が隠れるくらいに巻きつけたマフラーの横を山手線が出て行くよ、
私は十七歳と、赤みの差した白い顔、まぶた、寒そうな唇、白い足に守られていた。この肌の中でぬくぬくとあああああ、はだのなかで、白い湯気のような息を吐いていた。ケータイには返信してないメールがあったし、ゆびさきはきれいだった。
上野公園のボートで溺れる、青白いビルと蓮の葉にかこまれて一羽の白鳥と溺れる。私の胸は温かい。そして明け方の水のように世界の寒さは心地よかった。